創業の想い
かつて私は、学者を志しました。
世界は無知と狂気、そして権威と建前によってつくられており、世の中にある数々の問題は、「正しい知識」を見いだし、それを権威ある者が拡めることで解消される。そう確信した私は、社会の「正しい知識」を突き詰め、「権威」ある立場につくために、当時81歳だった著名な経営学者の元で、研究助手となりました。
それから二年が経ち、自分の中に二つの気づきが芽生えました。一つは、「真実」とは本質的に現場・現実に眠っているものであり、自分が欲していた「正しい知識」というものは現場・現実を直に深く経験していくことでしか見出されないということ。もう一つは、学者になって世界を変えたいという建前のもと、どこかで権威そのものを強く欲していた自分がいたこと。
現実世界では何が起きているのかを直接、直観しながら生きていきたい。そして、権威という飾りへの執着を捨て去り、現場の当事者として現実に向き合い、自ら直感した真実に基づいて生きる人間でありたい。そう強く思いました。間もなく仕事を辞めた私は、新しい生き方を模索しはじめます。
自らの言っていることと、やっていることを一致させる。世の中の潮流に押し流されず、自分の軸となる精神の根幹を見つめ直し、より自由に純粋に本質を求めて生きる。その中で、人として生まれもった感覚や能力の全てが研ぎ澄まされ、より全人的な「人」としての在り方を探究していく。そんな想いを全て包括できる営みとは何か。
この問いを抱えたまま一年が過ぎたころ、私は農業に出会いました。それから一年かけて全国30件以上の自然栽培・有機栽培農家を巡り、最後に訪れた雪国・会津にある「自然農法無の会」の農業に一目惚れして、2021年の冬に移住しました。お米を中心に、大豆、そば、なたね油、野菜、果樹も育てている、県内最大の有機稲作面積を誇る農業法人です。
それから三年。会津に限らず全国の地方を渡り、農業に携わるさまざまな人と話しをする中で見えてきたことがあります。それは、私たちが当たり前のものとしている現代的な暮らしは、そう長くは続かないということ。具体的には、近い将来に農業・食料危機、地方社会の消滅と都市の崩壊が起こることです。
その原因の本質は、現代を生きる私たちの生き方と生活が、自然界、そして私たちの存在の本質に反することにあると、私は常々感じます。しかし、こうした激動の未来を真っ直ぐ見つめ、心豊かに生ききらんとする姿を、私たち大人は次世代を創っていく子どもたちに示していく使命があると思います。
このプロジェクトはいわゆる「ビジネス」ではありません。私たちの意識をより本質的なものへとシフトさせていくための「ミッション」です。
自らの「全て」をかけて、自らを含む世界のすべてを創り変えて参りますので、ご共感いただけるところがありましたら、ぜひご支援、ご協力のほどをお願いいたします。
株式会社ZEN-BU 代表取締役 宇野宏泰
今、何が起きているのか?
私たちの生活は、早ければあと5年以内に「食」を起点として大きく揺らぐことが想定されます。その原因の一つは、日本のみならず世界が「土の劣化・消失」と「異常気象」という大きな危機に直面していることにあります。
戦後に拡まった化学肥料と農薬を中心とした農業の結果、全国の農地が痩せています。そこに記録的な台風や高温といった異常気象が重なり、近年では東北以南、特に平野部における稲作・畑作に大きな影響が出ています。農作物に携わる仕事をしている人は口を揃えて「これからは東北と北海道の時代」と言っている声は、社会には広く知られていません。こうした異常気象に強い作物を育てるためには、品種改良だけでなく「豊かな土」を作ることや、より作物の生命力を引き出す自然農法が各地で求められています。
加えて、農業資源の確保が揺らいでいます。日本という国に化石燃料がほとんど無いことは有名ですが、現代の私たちの食卓を支える化学肥料、種子、農薬、牧畜用の飼料などの9割以上は、現時点で海外からの輸入に頼っています。特に作物の源となる国産の種子、そして収量や品質に直接的な影響を及ぼす肥料との自給率の低さは、国際情勢上の有事の際に、直接的に農業生産に影響を及ぼします。現に、中国のロックダウンやウクライナ戦争の影響で農業資材や燃料費が高騰したために、全国的に多くの農家が急激なスピードで廃業を迫られています。
そして最も本質的な問題が、人材不足です。日本における農業従事者の7割が高齢者と言われ、担い手不足という現実がすぐそこまで来ています。新規就農者が急速に増えない限り、日本における農業人口は5年以内に約半数以下となるといえるのではないでしょうか。また、気候変動に対応した栽培を実施するためには、自然の力を使った土づくりを行う有機農業が有効になってきますが、より手間と洞察力、思考力が求められる農法であるため、少人数による面積拡大が難しく、身体を動かすことができる若手の参画が求められています。
人材を確保するためには、農業という産業そのものが魅力的なものにならなくてはなりません。しかし、今の農業は、そこに参入した若者が明るい未来を描ける産業になっているでしょうか。子どもたちが憧れることのできる職業になっているでしょうか。知恵とやる気に溢れ、物事を大局的に考える人が多くいる産業は、どのような危機に面しても打開策を見出すことができます。でも、現状の農業界はそうではない。基本的に薄利多売型ビジネスであるため、効率性を突き詰めた大量生産か、高級ブランディングを前提とした少数プレーヤーのみが勝つことのできる業態となっています。その結果、経済性を極限まで追求すること無しでは事業として成り立ちません。当然、環境保全や健康促進といったものの優先順位は低くなり、地域自給型の資源サイクルを確立する余裕は生まれず、人材育成さえもしっかりと進めることが難しい状況です。農業が経済システムの最下層に位置する現状のままでは、昨今の状況を根本的に打開する手立ては見つかりえないと考えます。
その一方で、社会や経済の仕組みはすぐには変わらないこともまた事実です。しかし、だからこそ、ブレない信念と価値観を土台に、実践知に基づいた新しい発想で、これから日本に必要とされる食糧生産システムを創り上げ、「農業」という産業の位置付けを刷新することが求められているのではないでしょうか。
いま私たちは、日本や世界の農業の現状を当事者として肌で感じて、新しく農業の形を構想し、共に創り上げる仲間を全国から集めています。そして、すでにたくさんの方が賛同し、協力してくださっています。ここで形成されるコミュニティーの力で、農業を含む第一次・二次産業や地域社会の問題、そしてこどもの教育にまつわるさまざまな課題を根本から生み出さない仕組みを創っていきます。